南綾子『痩せたらかわいくなるのにね?』は自分の価値観を爽快にぶっ叩いてくれる物語

『痩せたらかわいくなるのにね?』とは

『痩せたらかわいくなるのにね?』は、女による女のためのR-18文学賞でデビューした南綾子さんによる小説です。

【あらすじ】

主人公は細身な女性が好きな無職で童貞の土肥恵太、31歳。貯金もなくなりかけ、特に何かやることもなく過ごしていたところ、ダイエット教室を営む叔母から仕事を斡旋され、働くことに。

叔母からは「ダイエット教室を退会した元会員に連絡を取り、再入会させる」(5万円のボーナス付き)という業務を与えられる。元会員の情報を整理してみると、そこにはかつての同僚で自分に好意を寄せていた「福田小百合」の名前があった。

小百合のもとを訪ねたところ特に瘦せた様子はないが、「もうダイエットは必要ない」と言われ……。

もとは『ダイエットの神様』というタイトルでしたが改題・加筆修正され、『痩せたらかわいくなるのにね?』として2025年2月に出版されました。

南綾子さんの著書は、2024年1月にドラマ化された『婚活1000本ノック』などがあります。痛快な文体の作品が多く、グイグイ読み進められる魅力があり、私自身南綾子さんのファンです!

今作のおすすめポイントを紹介していきます!!

(※私が読んだのは改題前の『ダイエットの神様 』のため、内容に少し違いがある場合があります)

登場人物の紹介

『痩せたらかわいくなるのにね?』は9章で構成されています。主要人物と、各章に登場する人物をピックアップしていくので物語の雰囲気を掴んでいただければと思います!

  • 土肥恵太(31)…童貞で無職。細身の女性が好きだが、自分のことを好いてくれるのは太った女性ばかり。心の中では無意識に、女性の外見をジャッジしている

  • 福田小百合(45)…162cm、80kg。土肥が短期派遣の仕事をしていたときの研修担当だった。思い込みが激しく、口が悪い。まあまあ嘘をつく

  • 真知子…土肥の叔母。ダイエット教室を経営し、一部では「ダイエットの神様」と呼ばれている。エステやネイルサロンにも事業展開しているやり手。ただ物語にはあまり登場しない

  • 後藤順子(35)…「ラーメンライスの夜」に登場する女性。163cm、75kg。自分の欲求を素直に言うことに抵抗がある様子。食べることが大好きだが、食べ終わった後は罪悪感に苛まれている

  • 浅川満里奈(29)…「バターの快感」に登場する女性。155cm、75kg。旦那に不倫されているストレスで体重が増えてしまった。あっさりと再入会するが……

  • 橋本文子(35)…「涙の金魚鉢パフェ」に登場する女性。自らをブー子と名乗る、土肥と小百合の元同僚。推定165cm、60kg。同じ職場の男性に対し好意を抱き、痩せることを決心するが……

  • 美和子(35)…「トッポギ・リベンジ」に登場する女性。推定155cm、75kg。「アナコンダ松浦」という名前でかつて大食いタレントとして活動していた。現在は総菜屋で働いている。体型のせいで夫には「女として見られなくなった」と言われてしまう

  • 霧島幸子(53)…「誰のためのあんこ断ち」に登場する女性。159cm、93kg。叔母の友人。スーパーの事務員として働いている。裁縫が趣味。清貧を心がけているので、教室には入会しないと断るが……

  • 和美(37or38)…「にんにくの効能」に登場する女性。土肥の従姉妹。バツイチ。離婚してから「激太り→痩せる」を繰り返している。美人で頭もよく、スポーツも万能な優等生

  • 田川向日葵…土肥が短期派遣の仕事をしていたときの同僚。細身で色白、穏やかな性格で土肥のタイプの女性

  • 日村千絵…「世界を牛耳るチキンドラム」に登場する女性。土肥と小百合の元同僚。昼休みには定食を3人前食べていた。整形をして以前より性格が明るくなった。食べることが大好き

『痩せたらかわいくなるのにね?』の好きなところ

自分の価値観をぶん殴ってくれる

タイトルにもある「痩せたらかわいくなるのにね?」。誰かに対して一度は思ったことありませんか?

正直に言うと私はあります。もちろん直接伝えたりはしませんが、芸人さんや同僚に対して「痩せたらもっとかわいくなるんだろうな~」と心の中で思ったことがありました。悪気なんてなく、どちらかといえば善意寄りの気持ちで。

でもこの作品を読むと、そんな余計なお世話すぎる感覚を持った自分の頭をぶん殴ってくれます。しかも説教臭くなく、爽快に

詳細は伏せますが、上記の登場人物の誰かが放った、ハッとさせられた言葉を引用します。

「そう、みんな大バカ! なんの疑問も持たず、当たり前のように他人の外見をジャッジするの。男だけじゃない。女も。勝手に美人だブスだデブだなんだって」

南綾子『ダイエットの神様』Kindle版、双葉社、位置No.2637

私たちが生きるこの日本って、あまりにもナチュラルに人の外見をジャッジしますよね。肥満は不健康といった問題は一旦置いておいて、究極、他人が太ってようが、一重だろうが、歯並びが悪かろうが、どうでもいいし、自分には関係ないはずなんですよ。

当たり前だけど、この社会に埋もれている、大切な価値観を思い起こさせてくれる作品です。

土肥×小百合の掛け合い

土肥と小百合の会話や土肥の心の声が面白いのもこのお話の魅力。会話はテンポ感がよく、グイグイ読み進められます。

そして何よりふたりとも口が悪い……!

土肥は小百合に対して「プレデター似の顔面」と心の中で思い、小百合は土肥に対して童貞くさいと直接言い放ちます。お互いが同じくらい辛辣です。

直接言葉にするのはほとんど小百合ですが、土肥は土肥で心の中で毒づきまくります。そんな土肥の心の声を一部引用でご紹介。なかなかひどい言いようですが、妙に納得感のある所見です。

(小百合と叔母が意気投合していることに対して)

クソババア同士、クソみたいにウマがあうらしい。しかし、そんなことも今のうちだと俺は思っている。クソババアとクソババアがいつまでも仲良くいられるわけはない。どうせそのうち、クソみたいにくだらない理由で仲間割れする

南綾子『ダイエットの神様』Kindle版、双葉社、位置No.859

クソのオンパレードですが、上手いことを言っていて笑ってしまうし、「意外と大人になっても人間ってしょうもないことで仲たがいするんだよな~」と私も共感してしまいました。

そして小百合がいつも食べている高カロリーでジャンクなフード(ペヤング超大盛に生卵・マヨネーズ・納豆トッピング)に対して、土肥はひそかに羨望のまなざしを向けます。食の価値観の合う、なんだかんだいいコンビのふたりです。

変わる人と変わらない人

痩せたいと思う(思っていた)人たちに会いに行く土肥。女性たちの境遇やこれまで受けてきた仕打ちを聞き、自分の中にある価値観が揺らぎ始めます。

男の外見をあれこれ言う女なんてろくな奴じゃない。じゃあ男はいいのか? 男は女の外見をあれこれ言うのを許されているのか?」と。

ただ土肥もすんなりと変われるわけではなく、凝り固まった考えが消えないことに「なぜなんだ?」と葛藤します。そんな姿が人間らしくもあり、読んでいる私たちの固定観念も浮かび上がってきます。

また小百合も小百合で、いろんな人と関わっていく中で自分自身と向き合うことに。小百合の選択はぜひ読んで見届けてほしいですが、小百合のセリフの中でとても好きなものをひとつご紹介するとともに、私自身の心にも留めておこうと思います。

「あたしはあたしのことをブスじゃないと思ってる。あたしなりにかわいいと思ってる。それに、生きているうちに一人でもいいから、あたしのことを本気でかわいくて好きだって言ってくれる人が現れるっていう望みを捨てていない!」

南綾子『ダイエットの神様』Kindle版、双葉社、位置No.1503

自分のことをブスだと思うのも、かわいいと思うのも自由なんだと改めて気づかされました。私自身、自分が写っている写真を見ると、粗ばかり気になって落ち込んだりもするのですが、そんな自分をブスだと思わなきゃいけない決まりはないんだ!!と思うことにしました。

土肥や小百合に対して、『痩せたらかわいくなるのにね?』には変われない人も出てきます。

人によっては死ぬまで治らない、むしろ死んでも治らない業を背負っているのかもと思わされました。自分のコンプレックスだったり、他人に害を及ぼしてしまうような悪癖だったりは、生きているうちに対処しないと、いつか自分の首を絞める可能性があるかもしれません。

登場人物たちの行く末をぜひ読んで見届けてください!

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