【読書感想など】目を背けてはいけないものが小説『BUTTER』にはある

こんな人におすすめ!

#フェミニズムやジェンダーについて知りたい人
#木嶋佳苗が起こした首都圏連続不審死事件に興味がある人
#奮闘する女性の物語が好きな人

5年ぶりに味わった『BUTTER』

584ページに渡る柚木麻子さんの骨太小説『BUTTER』。約5年ぶりに読み終えました。イギリスでフェミニスト小説として高く評価され、最近は日本の書店でも大きく展開されたりしていますよね。

柚木麻子さんのファンなので、『BUTTER』も文庫版が刊行された年に読んでいたのですが、最近もう一度読了しました!

今回読んでまず感じたのは、もしカジマナが男性たちを殺害したとするなら、それは男たちへの復讐なのではないかということ。自分を召使いのように扱いながら、ブスとして見下されることに怒りが湧いていたのではと思いました。

同じ本を二度読むっていいですね。自分の変わらないところと変わったところを、強い輪郭をもってくっきりと感じます。

5年前にも抱いたのは、柚木麻子さんの圧倒的な筆力です。『BUTTER』は、複数の男たちを殺害した疑いをかけられているカジマナこと梶井真奈子と週刊誌記者・里佳の関係性が見どころでもありますが、読んでいると里佳の気持ちとリンクして、カジマナの印象も変わっていくんですよね

序盤はカジマナに対して畏怖の念というか、自分ではこれっぽちもコントロールできない現象を目の当たりにしているような感情を抱いたのですが、後半になってくると里佳と近い目線で、「カジマナは学生時代から人付き合いが苦手で、ずっと理解者が欲しかったのかな」といった仮説を持ち、一歩引いた目で見られるようになっていきます。

カジマナは物語の最初から最後までカジマナのままですが、別人にすら思えてくる不思議。二度読んでもこの不思議体験に遭遇できました。

反対に5年前には『BUTTER』を読んで「字がきれいになりたい」と思ったのですが、今回は特に感じなかったです。美文字な点だけでなく、前回はカジマナや木嶋佳苗に対して尊敬とまではいかないけど、参考にしたい部分があったような気がするのですが、今回は特に思いませんでした。

木嶋佳苗が起こした「首都圏連続不審死事件」は2007年からの犯行とされており、佳苗自身が32歳くらいのころから周囲で不審死が多発するのですが、私は今回だいぶその年齢に近づいています(2025年時点で29歳)。

年齢が近くなり感じたのは、「佳苗の生き方はなかなかしんどそうだな」ということ。『BUTTER』に出てくる、料理教室に通うチヅさんもそんなようなことを言っていました。

中年~高齢男性のお世話をしても、未来への活力みたいなものは湧いてこなさそうだし、それだったら多少きついことはあっても働く方が、個人的には精神衛生上いいです。経験はないのですが、人のお世話ってかなり体力がいるのではと想像しています。

なので男性をお世話した後に殺害する(疑惑ではありますが)ことで生計を立てようとした木嶋佳苗・カジマナには同情のような感情を抱きました。学校や会社という空間で、何かを与えたり・得たりせずに、人と関係を構築していくことが苦手だったんだろうなとも思います。

小説『BUTTER』好きな文ベスト3

普段グッときた文章には線を引きながら読んでいるのですが、『BUTTER』では常にペンを携帯しながら読んでいました!! 個人的に好きな文章ベスト3を発表していきたいと思います。

自分が無意識のうちに受け入れてしまっていた価値観に気づかされ、体が揺さぶられるような感覚すらありました……。

第3位 里佳がカジマナに言った言葉

料理と愛情はぜんぜん違うものなんじゃないでしょうか。そもそも、料理と愛情をごっちゃにして考えてしまったから、あなたの付き合った男性たちは、あなたに振り回され、あれほど疲弊して命を落としたんじゃないでしょうか

たしかに掃除や洗濯などほかの家事は愛情の証とはあまり言われないのに、料理は愛情表現として語られることが多いなと、ハッとしました。親から子への愛情としても広く認識されている気がします。

そして私の父や同僚もそうなのですが、ほかの家事はやるのに料理だけは避けている男性が(体感で)多い……! 本人としては「めんどくさい」を主な理由としているようですが、男性たちも意識していない理由がひっそりと存在しているのでは? と思っています。一部の男性にとって、料理をしないことが威厳やプライドを保つことになっているのかも?

第2位 里佳が感じた思いを言葉にしたもの

まるで、父が大きな赤ん坊で、母が育児放棄しているかのような口ぶりだった

里佳の両親が離婚し、父の周囲にいる人が、彼が荒んでいく姿を母に告げることに対し、里佳が感じた思いを言葉にしたものです。

配偶者のケアをしないことを「育児放棄」と例えているのが、しっくりきてしまいました。全員が全員ではないとわかってはいるのですが、「夫の世話をする妻」という図式が今でもなお価値観のひとつとして根付いているのが不気味です。

第1位 里佳の気づき

正反対のものでも、自分がいいと思えば取り入れ、直感を信じてミックスする。それこそが、料理の醍醐味であり、ひょっとすると暮らしを豊かにする方法なのではないだろうか。それはいわゆるセンスとか、柔軟性とか、知性と呼べるものなのかもしれない

3位・2位では一部の男性に対して批判的な眼差しを向けてしまったのですが、1位は自分自身の生き方の支えになってくれそうな言葉をチョイスしました。里佳がチヅさんとの会話の中で得た気づきです。

結局人生は自由で、何を食べるかはもちろん、どんな服を着るか、休みの日はどう過ごすのか、部屋にどんなものを置くか、いろんなものを好きなように決めていいのだと勇気づけられるような文章でした

とっても個人的なことでいうと、今年結婚する予定があるのですが、自分が望まなければ結婚式は挙げなくていいし、特に思い入れのないハイブランドの結婚指輪を買う必要はないし、新婚旅行は海外に行かなきゃいけない理由もないんだ! と思うと、より生きやすくなりました。

そして今の自分の中にも俗な欲はあって、自分がいいと思うものを取り入れた先に「センスがいい」「知性がある」という状態になれたら最高だなとも思っています。かっこいい人になりたい。なのでこの文章のように、正反対のものでもときには直感を信じて混ぜみてようと思いました!!

フェミニズムを知りたい!!

フェミニズムって、「女性が権利だけを叫んでいる」という勘違いが広がっているように感じませんか? 

私は感じていました。

でもそんな単純なものではないはずだという感覚もあったんです。

「女性が今もなお当たり前のように受け入れてしまっているけど、この部分見直した方がいいのでは」とか「男女が平等ではないことによって生じる社会全体の影響」などを議論する学問なのかもという、ふわっとしたイメージも持っていました。

ずっと興味はあったのになんとなく先延ばしにしてしまっていたので、本を買ってみました!! (絶賛読書中)

(1)よくわかるジェンダー・スタディーズ: 人文社会科学から自然科学まで

ジェンダーについて総合的にとらえることができる入門書

(2)フェミニストってわけじゃないけど、どこか感じる違和感について──言葉にならないモヤモヤを1つ1つ「全部」整理してみた

韓国で生まれた本。最近ひっかかっていたモヤモヤについて丁寧に語られていました

(3)誘蛾灯 二つの連続不審死事件

こちらはフェミニズム・ジェンダーの本ではないのですが、木嶋佳苗と比較されることもある上田美由紀が関与したとされる事件のルポです。そして木嶋佳苗はこの『誘蛾灯』を読んだことをきっかけに、ブログを開設したのだそう。「青木さんが取材をしてくれていたら……」とも語っています。美由紀は(そしてブログを見る限り多分佳苗も)、びっくりするほどの嘘つきです。

2013年12月 : 木嶋佳苗の拘置所日記


(4)自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと

「男性の生きづらさ」についても知りたいと思い、行きついたのがこちらの本。シンプルにとっても面白かったです。女性の私からすると、「なぜ自分で自分を追い込むようなことをするのだろう?」という感想を持ちました。

(5)ブスの自信の持ち方

フェミニズムに関する本というわけではないのですが、ジェンダーについて「参考にしたい!」と思う考えが書かれていたので紹介します。「女性が陰で男性社員の悪口を言うことは正義とされがちなことについて」「化粧はマナーという社会について」「痴漢について」はジェンダーとも関わりがあるなと感じました。

ざっと5冊ほど並べてみましたが、上記の中でも『フェミニストってわけじゃないけど、どこか感じる違和感について──言葉にならないモヤモヤを1つ1つ「全部」整理してみた』にあったフェミニズムの定義が、自分の中でハッと腑に落ちた部分だったので紹介します!

フェミニズムは「女性のための世の中を、女性によってつくろう」なんて話ではない。「性差によって与えられる義務や期待から自由になろう」という考え方で、女性のみならず男性の問題も同じようにとらえたものだ

やっぱりフェミニズムって女性のためだけの思想ではないんですよね。そう考えると女性はもちろん、男性や性的マイノリティの方が感じている障壁も知りたくなりました。

女性が会社で働くリスク

とはいえ、まだまだ男性に優位な社会ではあると思うんです。男性優位とはまたちょっと別かもしれませんが、つい3日前に上司の過去に犯した加害行為を知ってしまったことで、会社で働くってリスクもあるんだと思ってしまいました。(本当はこんなリスク紹介したくないですが、セクハラがなくなる社会を願って……!)

今は会社を辞めた私の先輩Aさんが上司と出張した際、力ずくで宿泊先の部屋に入ってこようとしたそうです。

個人的に結構ショッキングな出来事で……。

まず出てくるのは「キモいな」とか「卑怯だな」みたいな思いだったのですが、グルグル考えているうちに「上司は同僚女性のことを人間扱いしていなくないか?」とも思えてきて。自分と同じ権利を持った人間だと思っているなら、恋愛感情を示していない間柄に、突拍子もなく何の加工もしないまま性欲をぶつけてこなくないか? と思いました。

アルコールが入っていたとはいえ、女性を欲望を満たすための存在として見ていたと思うと、できることなら今すぐ辞表を叩きつけて、上司と完全につながりを排除して生きていきたい気分です(同僚女性はすでに転職済みですが私は明日も明後日も関わりがあるので……)

年を取ったり、他の方からすると「潔癖だな~」と思うかもしれませんが、潔癖であってもそのまま残しておこうという感情に至り、思いのまま吐き出したところです。

私のフェミニズムの現在地

少し脱線してしまいましたが、『BUTTER』を読んで思ったのはフェミニズムは大切にしつつ、自分の隣にいる男性と、『BUTTER』に出てくる男性やXで「フェミさん」と揶揄してくる男性、セクハラ上司とは切り分けて考えたいということ。

フェミニズム的な考えが強まると、ふと「男性全般が女性が感じている不平等に対して関心がない」ような気がしてしまうこともあるのですが、少なくとも私の隣にいる男性(夫になる予定の人)は私の意思を尊重してくれるし、家事はしっかり分担しているし、料理も作るしで、『BUTTER』に出てくる男性とはまったく違います。

女性が感じる不平等はあるものの、男性全員が敵なわけではもちろんないので、しっくりくるフェミニズムを自分に馴染ませていきたいなと思いました。

リアルな木嶋佳苗はほぼリアルタイムで追える

ここで最後に余談です。

知っている方も多いかもしれませんが、カジマナのモデルとなった木嶋佳苗は収監中の拘置所でブログを書いており、2025年10月現在も更新中。ただ2018年5月から2024年5月までの約6年間は更新が滞っていたみたいです。

木嶋佳苗の拘置所日記

めちゃ達筆です。

『BUTTER』について述べる木嶋佳苗

そして実は木嶋佳苗、『BUTTER』を読んでいるっぽくとてもブチ切れています……。

2017年5月11日配信 「バターって何やねん」

バターって何やねん 2017年5月11日 : 木嶋佳苗の拘置所日記
柚木麻子って誰? 私も家族も弁護士も知らないユズキアサコという人が書いた本「BUTTER」。 この本の主人公は、木嶋佳苗...

ブログ内で怒り狂ってはいるものの、『BUTTER』のどの部分が気に入らなかったのかはイマイチ書かれていません(バターにこだわりはなく、マーガリンも食べるみたいなことは言っていますが)。

なのでここからは私の想像になってしまいますが、『BUTTER』の中に的を射ていた部分があったからこその怒りなのではと思っています。「地元では誰にも注目されていなかったこと」とか、「一見エネルギッシュに見えるが、実は受け身で他人任せの消極的な人生だったこと」などが核心を突いているのでは。

30kgの減量を達成した木嶋佳苗

木嶋佳苗は30kgの減量に成功したらしく、その方法をnoteで公開しています。

2024年9月1日配信 「東京拘置所ガイド〜30kg痩せた木嶋佳苗の獄中記〜」

東京拘置所ガイド〜30kg痩せた木嶋佳苗の獄中記〜|木嶋佳苗

noteではこの記事を第1弾とし、現時点で記事はすべて有料です。「東京拘置所ガイド」の価格は500円。

記事の中には、健康診断結果を載せたものを3万円というかなり強気の価格設定にしているものもあります

健康診断結果|木嶋佳苗
まずこちらを読んでから下に進んでください。
東京拘置所ガイド

「東京拘置所ガイド」では“ダイエットを真剣に始めたきっかけ”という見出しがあるので、木嶋佳苗の心境の変化がわかるかもしれません。私は購入していないですが。

ちなみに2025年9月28日には10万円の記事が販売されています。ノンフィクション作家・石井妙子さんの連載記事「ウェンカムイ 死刑囚・木嶋佳苗の生痕」に対する反論を書いたブログのようです。

ウェンカムイ 死刑囚・木嶋佳苗の生痕 | 週刊文春
「週刊文春」の最新スクープが雑誌発売前に読めるサブスクリプションサービスです。電子版オリジナル記事や解説番組など、「週刊...

50歳を迎えた木嶋佳苗が何を思うのか、興味がある方はブログを読んでみるといいかもしれません。私もいくつか読もうとしてみたのですが、直情的に文章にしている印象があり、結局何を言いたいの? と思うことが多くあまり読めていません……。

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